カーボンナノチューブの電子構造(計算)
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グラフェンシートの電子構造のつづきです。

1.カーボンナノチューブの電子状態

(1) ナノチューブを特徴づけるパラメータ

[1] カーボンナノチューブ(NT)はグラフェンシートを丸めた円筒形(チューブ状)の構造をとります。カーボンナノチューブが上図の炭素原子O と炭素原子C を丸めて重ね合わせるような構造をもつとき,O から C を指し示すベクトル,

c =(n1a1+n2a2)

カイラルベクトル( chiral vector )と呼び,このカーボンナノチューブのカイラリティーは(n1,n2)であるというような言い方をします。ここで,a1a2 はグラフェンシートの基本単位格子ベクトル[#]であり,n1,n2は正の整数値をとります。知られている一番小さな径を持つカーブンナノチューブは( , )です。長さ,半径といった幾何学的なパラメーターよりも,この”代数的”なカイラルベクトルによってカーボンナノチューブを分類する方が合理的です。

[2] この記法に従うと,ナノチューブの円周は、|a1|=a として,  

|c |=
(n1a1+n2a2)2
n12|a1|2+n22|a2|2+2n1n2a1a2
    =a
n12+n22+n1n2

で与えられます。また,ナノチューブの直径

D= a
n12+n22+n1n2
π

および,カイラル角度θ、  (n1≧n2≧0 として)

sinθ=
3 n2
2 n12+n22+n1n2
cosθ= 2n1 + n2
2 n12+n22+n1n2
; ただし、
0≦θ≦ π
6

も簡単な幾何学計算から計算できます。

(2) ナノチューブの電子構造に対する境界条件

[3] グラフェンシートが幾何学的な制約に加えて、円筒軸周りの回転対称性から,

ck 2πp  ( p :整数 )

がナノチューブの周期境界条件として付加されます。つまり,解として許されるナノチューブの波動関数の位相は,チューブの周りを一周して元に戻ってきたときに同じでなければならないというのが物理的な意味です。そうでない波は干渉しあって安定に存在できない!

特に、金属的な伝導性を生じさせるのはブリルアンゾーンのK点を通る波動ベクトル,

k ⇒ km=(2b1b2)/3

に従う状態にある電子だけですが,

ckm n1a1+n2a2 2b1b2
2n1a1b1+n2a2b2
3
3
         = 4πn1+2πn2
3

周期境界条件はこれが,2πp に等しいことなので,

2n1+n2=3p       p=1,2,・・・,n1  [金属ナノチューブとなる必要条件]

次にもっと一般的なナノチューブ成分で表すと、

c =(n1a1+n2a2)   
 =n1(a'1a'2)/2+n2a'2
 =(n2+ n1/2)a'2+(n1/2)a'1
k =kx
3 a
b'1+ky
a
b'2

とから,

kc =n1kx
3 a
a'1b'1+(n2+n1/2)ky
a
a'2b'2
2・2π
    =n1kx
3  a
+(n2+n1/2)kya= 2πp  [チューブ周期境界条件より]
2

これより、

3  kxa
2
1 2πp−ky a 2n2+n1
n1 2

カーボンナノチューブの電子構造では,この式をグラフェンシートの電子構造,E(k)関数[#]

E(kx,ky)=h11+γ0

 1+4cos kya cos
3 kxa
+4cos2 kya
2 2 2

に追加する必要があります。

[ ] この2式から,kx を消去し、ky → k と記号を改めて記すことにすれば、

E(k)=h11±γ0

 1+4cos ka ・cos
2πp −ka
2n2+ n1
2n1
n1
+4cos2 ka
2 2

が得られます。 つまり、ひとつの変数 k のみでエネルギーが定まる 一変数関数 E(k)(=1次元バンド構造) となります。言い換えると、tight binding 近似においては、

「 カーボンナノチューブの電子状態は擬1次元 」 

ということができます。

具体例

(3,3)ナノチューブ(金属)と (4,2) ナノチューブ(半導体)のバンド構造を例として示しておきました。

つづく ・・・

なお,カーボンナノチューブのサブバンド構造(一本一本のバンド)をよく見ると,ブリルアンゾーンの境界でないところでも傾きが0 となるの点が現れます。この点では状態密度が発散(無限大となる)し,この点を van Hove 特異点と呼びます。


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