501  金属自由電子の古典論  物性
f-denshi.com  更新日: 07/11/05

1.金属電子の古典論

 金属の特徴をいくつか挙げると,

(1) 高電気伝導性
(2) 高熱伝導性
(3) 高反射率 (金属光沢)
(4) 高延展性 (金属塑性)

これらはいずれも金属の自由電子によってもたらせる性質です。

古典的名著,

The theory of the properties of metals and alloys (1936) The Oxford University Press.
By N.F.Mott,H.Jones
( 翻訳書「金属物性論」1988年 内田老鶴圃N.F.モット,Hジョーンズ著 吉岡正三,横家恭介訳 )

によると,その当時,金属伝導の理論は次の実験結果を説明するものでなければならないとされていた。

(1) ヴィーデマン-フランツの法則  (ドルーデ理論で解決?)
(2) 純金属の電気抵抗周期表依存性
(3) マーティンセンの法則
(4) 抵抗の温度,および圧力依存性
(5 )超電導性の発現

そして,量子力学に基づく理論の出現によって,(5)を除けば,少なくとも定性的には上のすべての実験結果が説明可能となったして,モットらは上記の1冊の本に著わしたのでした。

量子力学が確立されたのは,一般的には1925年の行列力学(ハイゼンベルグ),1927年の波動力学(シュレーディンガー)が提唱されたことによるとされますから,それからたった10年でその成果が金属電子論に応用されて大成功をおさめていたことになります。改めて,量子力学が物質科学へ与えた影響の大きさ,そして,そのスピードも革命的であったことに驚かされます。

このページでは,量子力学の出現までの古典論を振り返ってみましょう。


金属の電気伝導論

ドルーデモデル:自由電子の運動=気体分子の運動(自由電子ガスモデル)
ローレンツモデル:ボルツマン輸送式+マックスウェエル−ボルツマン分布
ゾンマーフェルトモデル:フェルミ−ディラック分布


2.ドルーデの理論

量子力学が出現する前から,金属では外部から電界がかかっているときはもちろんのこと,電界のない状態であっても相当数(アボガドロ数)の電子は特定の原子に束縛されることなく,自由に金属全体を動き回っていると考えられていました。そのような時代の考察も含めた古典論を実験事実とともに見ていきます。

まず,導電性の物体の両端に電圧を掛けたときに流れる電流値との関係式として,オームの法則(1781年 H.キャベンディッシュ,1826年 G.オーム)が実験的に見いだされました。

V =RI    [V は抵抗体両端の電圧,I は電流,R は抵抗 ]
E =ρj   [ j は電流密度,E は電界(電場),ρは抵抗率]
σEj   [ σ は伝導率で,σ=1/ρ ]

抵抗に関して,もう少し定量的に示すと,

R=ρ L   [Lは抵抗体の長さ,Sは電流の断面積]  ⇔  E L=Rj S 
S

となります。ここで,ρは抵抗体固有の定数です。

自由電子がその呼び名のとおり完全に自由でしたでしたら,一定の電場によっていくらでも加速されるはずですが,実験結果からは,電流密度が金属試料の両端電圧Vではなく,電場E に比例することから,電子は金属中である一定の速度で運動しているように推論されます。

その金属のもつ抵抗の非量子論的な範囲での考察は以下のとおりです。

自由電子は,
(1) 金属内の電場によって加速される。
(2) 一定の距離を進むと,イオン殻との衝突し,減速される。
(3) その後も加速と減速が繰り返され,その間の平均速度が抵抗値を定めている。

この描像から,

ρ= m     [n は自由電子の体積密度,−e は電子のもつ電荷,τは緩和時間で加速開始から減速までの時間の半分]
nτe2

であることが分かっています。

ドルーデは金属中の自由電子を(金属)イオン殻(格子)の中を動き回る古典的なガスとみなして,電気伝導を以下のようにモデル化しました。

電子について

(1) 電子が負電荷(−e)を運ぶ。
(2) 電子の感じる静電ポテンシャルは外部から電界のみ。
(3) 電子は個々の区別ができない。
(4) 電子の体積はゼロと見なす  
(5) 電子同士の衝突は完全弾性
(6) 電子のエネルギーは連続的に変化できる(古典的)。

伝導モデル

電界のないとき

温度T では金属内電子は平均速度 <v0> でランダムな運動をして,イオン殻との衝突を繰り返す。このとき,

(1) <v0>=0           [電界がないときは移動は起こらない]
(2) <|v0|>≠0  (T>0)    [ランダムには動き回ってはいる]

電界のあるとき

(1) 電界E を印加すると,電子はその逆方向に加速される。
(2) イオン殻と衝突すると, その速度は平均値に戻る。

このとき,ニュートンの方程式は,

v =− eE                         (2.1) 
∂t m
m: 電子の質量,
v : 電子の速度, 
-e: 電子の電荷

を考えることとします。

電子の金属イオン殻との衝突と次の衝突の時間間隔を t とすると,衝突直前の速度vt は,

vv0 v  t = v0 eE  t                         (2.3)
∂t m

ここで,ここで,t を平均τで置き換えた次の量は, 

vD ≡−τ eE             [ドリフト速度] 
m
μ = vD        [電荷移動度] 
E m

と呼ばれています。

そして,(2.3)式に電子の持つ電荷−e をかけて,電子について総和をとると,電流密度j が得られるはずです。

j =  Σ (−e) v0−τ eE              cf. 電流 I =ne<vD>ΔS.
m

ここで,電界がない状態での電子の運動はランダムなので,Σv0 は 0 となり,第2項に関する和だけが残り,単位体積に存在する電子数をn とすれば,上式は,

j ne2τE                    
m

オームの法則(微分形(jE )と比較して,

σ= ne2 τ
m

となります。             ( σ=(1/ρ=ΔL/ RΔS )

τの温度依存性

古典論では??

3.熱伝導率の古典論(古典分子運動論から)

x軸方向に緩やかな温度勾配があり,温度が T(x) と表せるとき,金属の熱伝導率は次式で定義します。

q =−κ ∂T
∂x

ここで,q [Wm-2] は(x軸方向への)熱流であり,κ [Wm-1K-1] が熱伝導率です。つまり,熱流は,温度勾配とは反対向き(高温から低温)に引き起こされますが,その比例係数を熱伝導率と定義します。

熱流は分子の持つ運動エネルギーの流れであり,1つの電子が持つエネルギーをεi ,単位体積にある電子の数をn とすると,

q εivi

となります。また,分子同士が衝突を繰り返す時間間隔の平均値(平均自由時間)はτ’,分子のもつ運動エネルギーの平均値は,

i>=cT,  c: 1分子比熱

で与えられるとします(古典気体分子運動論から類推)。ただし,温度勾配があるので,温度は位置の関数 T(xi) です。

以上を踏まえて,x軸に垂直な平面を考えて,その面を横切る分子のエネルギー(の流れの)総和を計算すると,

q εivi

以下,x 成分,xi,vxi だけ書くと

   cT(xi−vxiτ’)vix
     ↓ Δx=vxiτ’として,T をテーラー展開
   c T(xi)− dT vxiτ’ vxi
dx
   cT(xi)vx−c dT (vxi)2τ’
dx
      速度の平均<vxi>=0 として,
  =−cτ’ dT (vxi)2
dx

一方, (vxi)2=(vyi)2=(vzi)2 (正しい?) と仮定すれば,

m (vxi)2 ncT
2 3

これを用いて,Σvxi を消去すれば,

q =− 2nc2τ’T dT
3m dx

よって,

κ= 2nc2τ’T              [古典論] 
3m

ところで,σ =  ne2τ/m でしたから,τ=τ’と仮定すれば,

κ =LT 
σ
L= 2 c 2 3 k 2     ただし,c= 3k  として,
3 e 2 e 2

これは,ヴィーデマン−フランツの法則 が成り立つことを示しています。ただし,定量的には比例定数Lは正しくない。





4.熱電伝導率とヴィーデマン−フランツの法則(フェルミ量子気体から)

自由電子による熱伝導

x軸方向に緩やかな温度勾配があり,温度が T(x) と表せるとき,金属の熱伝導率は次式で定義します。

q=−κ ∂T
∂x

ここで,q [Wm-2] は(x軸方向への)熱流であり,κ [Wm-1K-1] が熱伝導率です。つまり,熱流は,温度勾配とは反対向き(高温から低温)に引き起こされますが,その比例係数を熱伝導率と定義します。

最初に熱伝導率が,

κ= 1 Cvl
3

で与えられることを示しましょう。

これから計算したいのは,x軸方向に温度勾配があるときに,金属内部を自由に動き回っている電子が,x=0(yz平面)を通過する正味の(熱)エネルギーです。


温度がxの関数出るならば,それに対応する自由電子の持つ内部エネルギーもxの関数 u(x) で表されるはずです。ただし,x依存性は緩やかで,

u(x)=u(0+Δx)=u(0)+Δx ∂u
∂x
        ↓ Δx=−l cosθ 
  =u(0)−l cosθ ∂u
∂x

と近似できることとします。θはv とx軸のなす角度です。平均自由行程 l =τ|v| , τは緩和時間 

一方,自由電子の速度vがx軸と速度のなす角度がθとθ+dθに入る確率は,立体角を考えて,

2πsinθdθ sinθdθ
2

で与えられます。平面 x=0 を通過する電子の数は,電子の体積数密度 n ,図の体積 v cosθ をかけて,

nv cosθ sinθdθ
2

となります。

q = u(0)−l cosθ ∂u nv cosθsinθdθ
∂x 2
  =− nvl cos2θsinθdθ ∂u
2 ∂x
  =− nvl ∂u
3 ∂x
  =− vl n ∂u ∂T
3 ∂T ∂x
  =− vlC ∂T
3 ∂x

ここで,

C= n ∂u
∂T

単位体積当たりの比熱です。これを熱伝導率の定義式と比較すれば,

  κ= vlC   2τC
3 3

ここで,古典理想気体の比熱であれば,温度依存性のない定数である。

ところが,フェルミ理想気体であれば,比熱に寄与するのはフェルミ準位付近にある電子だけなので,

1 mvF2=EF     ⇔   vF2=2EF/m
2
Cv =nk π2 kT    フェルミ統計の低温近似 [#]  
2 EF

これを今求めたκの式に代入して,

κ= 2k2τ T                 [量子論] 
3m

となります。つまり温度依存性があることが分かります。

したがって,電気伝導率は先ほど導いたように,σ =  ne2τ/m でしたから,

κ =LT 
σ
L= π2 k 2   = 2.4x10-8 WΩK-2  (ローレンツ数)
3 e

ヴィーデマン−フランツの法則 が成り立つことが確認されます。







金属の熱伝導:2種類=格子振動(フォノン)+伝導電子

物質内部で温度差が生じた場合,熱エネルギーは温度が高い部分から低い部分へと格子振動(フォノン)によって運ばれる。格子振動は熱エネルギーを吸収し,原子の振動として蓄えている。高温部分では格子原子の振幅が大きくなり,隣接する部分での格子原子の振幅を大きくするために熱は熱い部分から冷たい部分へと広がっていく。

金属においては,フォノン以外に,

自由電子がフォノンとの相互作用を起こし,高温部で運動エネルギーを取得し,低温部で又フォノンに変換する。

ここで言う,電子のフォノンとの相互作用は,電子が格子原子と衝突しこの格子にある振動数の振動を生じさせる事を意味している。
自由電子は格子原子と衝突を繰り返しながら金属内を自由に行き来していると考える。
この際,電子の運動エネルギーと格子の振動によるエネルギーはバランスを保っている。
金属のある部分で温度があがり,格子振動が増加すると,その一部は自由電子の運動エネルギーに変換される(衝突によって)。この自由電子が金属の別の部分へ移動し,余計な運動エネルギーを持つ自由電子が格子原子と衝突し,格子振動を活発にする。その結果,高温部の温度は下がり,低温部の温度は上がる。

熱伝導率の定義:κ = w/(∂T/∂x)  w: 単位時間あたりの熱流密度=Q/面積・時間

κ=κphel

金属においては,κ〜κel もっぱら自由電子が熱を運んでいる。

ヴィーデマン−フランツの法則: 金属において,T >デバイ温度では, 電気伝導率と熱伝導率と比は金属によらず,

κ = LT 
σ
L= π2 k 2   = 2.5x10-8 WΩK-2  (ローレンツ数)
3 e



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フェルミ面における状態密度:

n(E)= 1 dS
3 フェルミ面 dE/dK


低温で金属の電気抵抗は減少しますが,絶対零度になっても,残留抵抗(residual resistance)と呼ばれる成分が残ります。これは上金属結晶の不完全性に由来します。
金属の抵抗率は格子振動(フォノン)ρph と欠陥・不純物による成分,ρiはの和( マティーセンの法則),として,

ρ=ρph + ρi

と表されるとしました。現在では,

(1) フォノン散乱
(2) 欠陥 (原子空孔・格子間原子・不純物原子)
(3) 転位
(4) 結晶粒界など