13 ルシャトリエ・ブラウンの法則
f-denshi.com  [目次へ] 更新日: 09/01/15 

1.質量作用の法則 

[1] 系を構成する物質(分子)に化学反応が起こるとき,それぞれの成分ごとに質量の増減が生じます。このとき,消滅する化学種の分子数と生成する化学種の分子数との関係は簡単な整数比で表すことができます。これを化学量論比と呼びます。たとえば,水素ガスと窒素ガスとが反応してアンモニアガスが生成する場合,化学反応式を次のように書きます。

3H2  +  N2  
2NH3
[反応物] [生成物]
または,  -3H2 - N2 + 2NH3 = 0       ← 熱力学での表記法
 

化学反応が右方向へ進行すれば,系における水素,窒素の質量(分子数)が減少し,アンモニアの質量が増加しますが,その増減の絶対値のモル比が 3:1:2 となります。左方向へ進行するときは全く逆の反応と質量の増減が起こます。

   このような可逆的な化学反応が起きる系に,ある温度と圧力が与えられると,それに応じて左右両方向への反応がつり合い,系の組成(成分の比)はある一定値に近づき変化しなくなります。この状態を化学平衡状態といいます。これも熱力学平衡状態のひとつです。したがって,このときの系の組成は熱力学的な知見,すなわち,「系のギブス自由エネルギーが最小」という条件に基づいて予測可能なはずです。

[2] 定量的に,このような化学平衡状態を記述するためにいくつか定義をしておきましょう。まず,化学反応式を,

ΣνjXj=0   ←熱力学での表記法に従います。

と表すことにすると,化学反応による各成分の増減のモル比には,

δn1:δn2: ・・・ :δnr=ν1:ν2: ・・・ :νr
(アンモニアの生成反応では δn1:δn2:δn3 = -3:-1: 2 ) 

の関係があります。これらは反応の進行を示す一つのパラメーター δξ を用いて,

δnj=νjδξ  (正方向に反応進行するとき,δξ>0 としてνj の符号を定める。)

と表すことができます。この表記の下で最初の状態からδξ=1だけ変化するとは,3モルの水素分子と1モルの窒素分子が減少し,2モルのアンモニアが増加することを意味します。一方,δξ=-1のときはそれとは全く逆の現象が起きることになります。

さて,各成分の化学ポテンシャルが[#]

μj(T,P,xj)=μj0(T,P)+RTlog xj

と理想的に表されるとします。ただし,希薄な気体の場合はμj0(T,P)は各成分が純粋なときの化学ポテンシャル,xj はj 成分のモル分率です。すると,P,T一定の下での化学反応に伴う系の全ギブス自由エネルギーの変化(変分)は[#]

δG =

μjδnj
   =δξ νjμj
=δξ νjj0+RTlog xj }

となります。したがって,化学反応の進行にともなうギブス自由エネルギーの変化率(傾き)は,

ΔG≡ ∂G νjμj0+RT νjlog xj     ・・・[*]
∂ξj T,P

で与えられることがわかります。ここで,第1項は標準化学ポテンシャル変化と呼ばれ,

ΔG0(T,P)≡ νjμj0     ・・・[**]

と書かれます。すると,[*]は次のようになります。

ΔG≡ΔG0+RT log xjνj

この系が熱平衡にある必要条件,すなわち,Gがξの変動に対して極小値をとる必要条件ΔG=0 から,

ΔG0+RT log xjνj = 0

これが系が化学平衡状態にあるための必要条件です。さらに,平衡定数として,

ΔG0(T,P) = -RT log K(T,P)

を満足する K(T,P) を定義すると,上の条件式は,

log K(T,P)= log xjνj

と書くことができます。すなわち,

K(T,P)= xjνj

という関係式が得られます。

[3] 成分をあらかじめ,j≦kのとき,νj<0,j>kのとき,νj>0となるように並べておけば,以上の結果は次のようにまとめられます。

質量作用の法則 [ネルンストの分配の法則]

可逆的な化学反応式が,
νjXj=0

と表されるとき,

K(T,P)≡exp 1 νjμj0 =exp{-ΔG0/RT}     [ 平衡定数
RT
をこの化学反応の平衡定数として定義すると,
K(T,P)= xjνj xk+1νk+1  ・・・  xrνr [生成系]
x11|   ・・・  xk|  [反応系]
が熱平衡状態において成り立つ。これを質量作用の法則と呼ぶ。ただし,
ΔG0 νjμj0                 [ 標準自由エネルギー変化
であって,ΔG0 は化学反応にともなう標準自由エネルギー変化と呼ぶ。

ここで,μj0=μj0(T,P)である[#]ことに注意すれば,平衡定数は定数と言いながらも温度,圧力の関数であることを忘れてはいけません。(ここで導出の際にT,P一定としたではないかと疑問に思う人は,関数 f=xyz2 を x,y 一定の下で,zで微分した偏導関数 f’=xyz がx,y,zの関数であることを思い出せばよい。)また,ΔG0を標準自由エネルギー変化と呼ぶのは,約束ごととして温度,圧力を 25℃,1atm など標準条件と定めて,平衡定数などを報告,編集するよう推奨されているからです。その物理的な意味は標準条件において,化学量論比だけ用意された純粋な各出発物質の化学ポテンシャルと,100%化学反応した後の化学量論比にある生成物の化学ポテンシャルとの差と考えることができます。


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2.ルシャトリエ・ブラウンの法則

 質量作用の法則の応用として,ルシャトリエ-ブラウンの原理があります。高校生の時にも天下り的に教わる化学平衡に関する法則ですが,熱力学の基本原理に基づいて理解することができます。

ルシャトリエ-ブラウンの原理

化学平衡状態にある系の条件,すなわち,温度,圧力,(組成) を変えるとそれを打ち消す方向に化学反応が進行する。

この原理の具体例を見ておくと,アンモニアの生成反応,

3H2  +  N2  
2NH3

がある組成の下で化学平衡にあって,

K(T,P)= xNH32
xH23 xN2

が成り立っているとします。そこへ等温定圧の下でアンモニアが加えられると,その直後は平衡から外れた状態となります。しかし,負の方向の反応が引き起こされ,アンモニアが消費されて減少する一方で,水素分子,窒素分子が増加し始めます。そして十分時間が経過すると,質量作用の法則を満たす平衡状態へ到達し,巨視的な変化が見られなくなります。つまり,アンモニアの増加を打ち消すような方向への化学反応をともない,系が新たな平衡状態へ移動することが観察されるのです。これをもっと一般化し,法則として述べたものがルシャトリエ-ブラウンの原理です。

上のように系にアンモニアを新たに添加する場合,平衡定数そのものが変化するわけではありませんでした。しかし,平衡定数は定数と言いながらも温度,圧力依存性があります。したがって,温度や圧力を変化させると平衡定数が変化し,その結果として,系の状態も新しい均衡点に向かって移動します。まず,圧力依存性について調べてみます。この場合の圧力は系の全体にかかる圧力のことで,全圧と呼ばれることがあります。特定の成分を系に添加したときに見られる分圧の変化とは違うことに注意してください。

[1] 平衡定数K(T,P)の圧力依存性を見るためにその対数をとった(計算が楽になります。)

log K(T,P)=- 1 νjμj0
RT

について圧力に関する偏微分を計算します。(理想気体として)

∂log K =- 1 νj ∂μj0
∂P T RT ∂P T
      ↓ ∂μj0 T ∂G T,P T ∂G T T,P ∂V T,P ≡v~j0
∂P ∂P ∂nj ∂nj ∂P ∂nj
         =- 1 νj・v~j0       
RT
       ↓純粋な j 成分についてv~j0 V =vj0
nj
         =- 1 νj・vj0       
RT
                  理想気体ならば,Pvj0 =RT
               = -P-1 νj      [K-P曲線の傾き]

ここで,右辺のΣνj は反応が正方向へ進行したときの系全体の粒子数の増減に関係しています。この符号を調べると平衡定数の圧力依存性(K-P曲線の傾きの符号)がわかることをこの式は示しています。

[2] アンモニア生成の例では,Σνj= (-3-1+2)<0 なので反応が正方向へ進むと全粒子数減少,つまり,K-P曲線の傾きは正であり,KはPに対して増加関数です。したがって,平衡状態にある系に対して,

[A] 圧力増加  K(T,P)= [NH32 が増加 
[H22[N2
[NH32が増加し,[H23[N2]が減少する方向  全粒子数減少  圧力減少
[B] 圧力減少  K(T,P)= [NH32 が減少 ⇒
[H22[N2
[H23[N2]が増加し,[NH32が減少する方向  全粒子数増加  圧力増加

すなわち,[A],[B]どちらの場合も,「圧力の変動の効果を打ち消す方向に平衡状態が移動する。」ということができます。

[3] 理想気体として取り扱えない場合,μj0を用いた議論はできず,直接,μjのまま計算を進めて,

∂ΔG νjμj νj ∂μj νjv~j
∂P T ∂P T ∂P T
として,ΔV~= νjv~jを評価することになります。

ΔV~は系が十分大きいとして(nj>>1),化学反応が正方向にδξ=1だけ進んだときの系の全体積変化で,この符号の正負について場合分けをして吟味すれば,理想気体のときと同じように評価がおこなえます。

もし,Σνj>0 [K-P曲線の傾きが負]の例であれば,上で考察した変化の方向はすべて逆になりますが,圧力の変動効果を打ち消すように平衡状態が移動することに変わりはありません。

[4] 次に平衡定数K(T,P)の温度依存性を調べてみましょう。これは,

log K(T,P)=- 1 νjμj0
RT

において,μj0=hj0-Tsj0 とし[#],温度に関する偏微分を計算します。

∂log K =- 1 νj ∂(μj0/T)
∂T P R ∂T P
        ↓   ∂(μj0/T) =-h~j0/T2=-hj0/T2 なので,公式(19)を利用[#]
∂T P
     = 1 νj・hj0
RT2
     = ΔH0
RT2

ここで,

ΔH0 νj・hj0

反応の標準エンタルピー変化といいます。これは化学反応式に従った場合の生成物の標準エンタルピーから反応系の標準エンタルピーを引いた量にあたります。

(これは,dξ= 1 だけ正方向に反応が進行したときのエンタルピー変化 (=反応熱) を意味しています。)

さて,ΔH0 がマイナス(系が受け取った熱量が負),つまり,その正方向への反応が発熱反応である場合を考えてみると,今導いた式から,K-T曲線の傾きは負です。このときの温度変化に対する系の応答は,

温度増加  Kが減少 ⇒ 生成物減少 (負方向へ反応が進む) ⇒ 吸熱 (温度減少)
温度減少  Kが増加 ⇒ 生成物増加 (正方向へ反応が進む) ⇒ 発熱 (温度増加)

すなわち, 「温度の変動の効果を打ち消す方向に平衡状態が移動する。」 ことがわかります。

吸熱反応の場合も同様の結論を得ます。 

理想気体として扱えない場合,

∂ΔG νjμj νj ∂μj =- νjs~j
∂T P ∂T P ∂T P
として,ΔS~=- νjs~jを評価することになります。

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