Appendix 2 ケーリー ・ ハミルトンの定理
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ケーリー・ハミルトン(Cayley - Hamilton) の定理と呼ばれる定理の具体例をあげておきます。

T 8 -2
3 1

の固有多項式は2章でも調べたように,

ΦT(λ)=|λET|=(λ−8)(λ−1)−3・(-2) = λ2−9λ+14

ここで,λ→T,1→E とする[#]と,

ΦT(T)= T2−9T+14E
     = 8 -2 2 −9 8 -2 +14 1 0
3 1 3 1 0 1
     = 58 -18 72 18 14 0
27 -5 -27 -9 0 14
     = 0 0 O  [零行列]
0 0

最後,零行列となったのは偶然ではなく,いつもこうなる,すごい!ということで,これが定理となります。また,このΦT(T)=O は2次行列だけ限らず,任意のn次正方行列について成り立ちます。

ケーリー・ハミルトンの定理

  正方行列Tの固有多項式,

ΦT(λ)≡|λET|      ←λの多項式

において,λをT,(1→E) と置き換えた行列の多項式について,

ΦT(T)=O   (零行列)  

が成り立つ。 

証明の前に実数の多項式と行列の多項式の違いを確認しておきます。実数を変数とする多項式の場合は,

a2−b2=(a+b)(a−b)

と因数分解が可能です。これは実数a と b が可換であるから,すなわち,

(a+b)(a−b)=a2−ab+ba−b2

において,ab=ba が成り立つからです。同様に行列について,

A2B2(AB)(AB)=(AB)(AB)

のような”因数分解”できる (がなりたつ) ためには,ABBA が成り立つことが必要です。このような因数分解と元の可換性の関係は,さらに行列CD,・・・と個数を増やした正方行列の多項式を考える場合も同様に要求されます。 以上を念頭において以下,定理の証明を読んでください。

[証明]

  連立1次方程式のクラメル(Cramer) の公式に関する定理[#]から,正方行列 (λET) の(i,j)余因子 Δij を j 行 i 列 成分にもつ余因子行列をΔ, および n 次単位行列を E とすると,  

ET)ΔΔET)ET| E   ( = ΦT(λ)E )・・・・・ [*]

が成り立ちます。(行列とその逆行列は可換) この等式の右辺がλのn次多項式を要素に含む行列なので,左辺のΔの要素Δijはλの(n−1)次多項式で成り立っています。したがって,λの次数が同じ成分ごとにまとめた適当な行列Bkを用いて,

ΔΔ(λ)=(λn-1Bn-1+λn-2Bn-2+・・・+B0)         ・・・・・ [**]

と表すことができます。ところが,(λET)とΔが可換,(λET)Δ(λ)Δ(λ)(λET) なので,ここに[**]を代入して展開し,同じ次数の項どおしを比較すれば,Bn-1Bn-2,・・・,B0Tがそれぞれ可換であることも分かります。例えば,λn-1の項から,

Bn-2TBn-1Bn-2Bn-1T

TBn-1 が可換であることが分かりますね。λn-2以下の項も同様です。したがって,[*]のλにTを代入した等式は因数分解されたままの形で成立します。すなわち,

ΦT(T)E =ΦT(T) =(TETΔ(T)=Δ(T)(TET)=O 

が成り立ちます。したがって,ΦT(T)=O となります。 ただし,Δ(T)はΔ(λ)において,λ→Tとした行列の多項式  (証明終わり)


余談ですが,

ΦT(T)=|TET|=0

という証明はまったくの間違い。右辺が零行列ではなく,ただの数の零。 この定理の意味するところを理解していないとこうしてしまいます。ケーリー・ハミルトンの定理はTΔで交換法則が成り立つというところがポイントとなっていますが,λ(数)→T(行列)とする際は,実数と行列の四則演算規則の違いにいつも細心の注意を払う必要があります。


[最小多項式]

それから,一般的にある多項式,

f(t)=antn+an-1tn-1+・・・+a1t+a0

において,t をn次正方行列Tに置き換えた行列の多項式が零行列であるとき,すなわち,

f(T)=anTn+an-1Tn-1+・・・+a1T+a0O

であるとき,このf(t)をT零化多項式と呼びます。 

 ケーリー・ハミルトンの定理は,「Tの固有多項式はTの零化多項式となっている」ことを主張しています。したがって,固有多項式ΦT(t)を因数として含む(n+1)次元以上の任意の多項式,g(t)ΦT(t) も零化多項式です。しかし,固有多項式がTの零化多項式として最小次数の多項式かといえば,そうとは限りません。固有多項式が重根を含む場合,その次元nより小さな次数のTの零化多項式が存在することもあります。次数最小で,最大次数の係数が1であるTの零化多項式を”T最小多項式”と言います。(自明な f(t)=0 は零化多項式から除外して考える。)

定理

Tの固有多項式が

ΦT(λ)=(λ−λ1)d1(λ−λ2)d2・・・(λ−λm)dm
 n = d1+d2+・・・+dm

で与えられるとき,最小多項式は,

φ=(λ−λ1)d'1(λ−λ2)d'2・・・(λ−λm)d'm  

と書くことができる。  ただし, 1≦d'k≦dk , (k=1,2,・・・,m)

証明  略  (上の説明からほとんど自明)

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