9-2 正規行列の直交分解
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1.正規行列によるベクトル空間の直交分解

[1] T をベクトル空間 V 上の対角化可能な線形演算子(正方行列)で,その固有値を λ12,・・・λm それに対応する固有空間を E (λ1),E (λ2),・・・,E (λm) とすれば,ベクトル空間V は,

V  = E(λ1) E(λ2) ・・・ E(λm)

と,固有空間の直和で表せることを4章で[#] 述べました。ここでは Tとその随伴演算子 T* とが, 

TT*T*T  

を満たすならば,T を用いた V の直和分解は,V の直交分解[#]にもなっていることを示します。つまり,異なる固有空間に属するベクトルどおしはお互いに直交している,すなわち,

V = E (λ1)⊥E (λ2)⊥・・・・・⊥E (λm)     [ 直交分解 ]

であることを示します。

[2] きちんと述べておくと,

定理1  [正規行列による直交分解]

V 上の線形演算子 T の固有空間: E (λj) によって V が直交分解:

    V = E (λ1)⊥E (λ2)⊥・・・・・⊥E (λm)     [ 直交分解 ]

するための必要十分条件は,T が正規演算子(正規行列)であることである。

[必要性] T の固有空間 E (λj) によって V が直交分解しているとします。すると,任意のベクトル x ∈V は,

x  = x1x2+・・・+xm  ;  xj∈E (λj)

と一意的に表され,互いに直交している固有空間,E(λj)への射影演算子 Pm [#]を用いれば,

Tx =Tx1Tx2+・・・+Txm  
   =λ1x1+λ2x2+・・・+λmxm  
      ↓ Pjxxj  
  =λ1P1x+λ2P2x+・・・+λmPmx 
  =(λ1P1+λ2P2+・・・+λmPm)x 

すなわち,

(1) T = λ1P1 + λ2P2 + ・・・ +λmPm

と射影演算子を用いて展開できることがわかります。この表現を演算子Tスペクトル分解といいます。

[3] さらに射影演算子の基本的性質 [#] より次の結果,(2),(3)も得られます。

正規演算子T の射影演算子を用いた展開

 (1) T  = λ1P1 + λ2P2 + ・・・ +λmPm

 (2) T* =λ1*P1 +λ2*P2 + ・・・+λm*Pm    (PkPk*より )

 (3) T-1 1 P1 1 P2+・・・+ 1 Pm   (PjPk0 (i≠j), Pj2 =Pj
 P1+・・・+Pm+・・・+PkE より)
λ1 λ2 λm
つまり,T,T*T-1 について,    
T T* T-1
固有空間 E(λm)で共通
固有値 λm λm* 1/λm
となります。

すると,(1),(2)を用いて,PjPk0 (i≠j),Pj2 =Pj に注意して計算すれば,

TT*T*T  (=Σ|λ|2Pk)

であることがわかります[#]。 (必要性の証明終)

[4] [十分性]  今度は逆にTT*T*T であったとして,V がE (λj) によって直交分解されることを示します。 そのために次の補題が必要です。

補題  

正規線形演算子ABが可換,すなわち,ABBAであるとき,ABに共通な固有ベクトル(=同時固有ケット)が存在する。

証明:
Aの固有値の一つをμ,その固有空間をE(μ),その固有ベクトルの任意の一つをxi (1≦i≦k=固有値μの重複度)とします。ABBAであるとき,
A(Bxi )=B(Axi )=Bxi )=μ(Bxi )
これは, Bxi Aの固有ベクトルであって固有値μをもつこと,すなわち, Bxi ∈E(μ)であること,BがE(μ)上の線形演算子 (= Bを任意のz∈E(μ)に作用させてもE(μ)からはみ出さない。) であることを示しています。
したがって ,E(μ)に制限して考えると,Bの固有値の一つλとそれに対応する固有ベクトルをyj,すなわち,
Byj=λyj ,  yj=cj1x1+・・・+cjkxk  
を考えると,
AyjA(cj1x1+・・・+cjkxk)=μ(cj1x1+・・・+cjkxk)=μyj
つまり,yj はABの共通の固有ケットです。以上のことはすべてAの固有値,固有空間に対して成り立つので,このyjを並べて,y とすれば,ABに共通な固有ベクトルとなります。(補題の証明終わり)
この補題は間違った証明が氾濫している例の一つだと思う。私が読んだ中で正しい証明が書かれている量子力学の本は小出昭一郎先生の「量子力学(I)」くらい。←大変丁寧に証明してある

[5] この補題からV上の線形演算子TT* が正規行列(TT*T*T) であるとき,共通の固有ベクトルz1∈V が存在して,

Tz1=μz1
T*z1=λz1

この固有ベクトルの張る1次元ベクトル空間,

V1={cz1|c∈C}

に対する直交補空間W1を,

W1={w1|(w1,z1)=0}  ⇔  V=V1⊥W1

と定義します。すると,

(Tw1,z1)=(w1,T*z1)=(w1z1)=λ*(w1,z1)=0
(T*w1,z1)=(w1,Tz1)=(w1z1)=μ*(w1,z1)=0

と計算できる[#]ので,「w1∈W1ならば,Tw1T*w1∈W1である」ことが分かります。つまり,互いに可換なTT*はV上の線形演算子であるだけでなく,W1上の線形演算子[#]でもあることが分かりました。

[6] すると,W1上の線形演算子TT*に共通の固有ベクトルz2∈W1が存在して,

V2={cz2|c∈C}

に対する直交補空間W2を考えることができ,W1=V2⊥W2,すなわち,

V=V1⊥V2⊥W2

とすることができます。そして,TT* は W2上の線形演算子であることを先ほどと同様に示すことができます。

これを繰り返していけば,結局,ベクトル空間Vは,

V=V1⊥V2⊥・・・⊥Vn

と互いに直交する1次元ベクトル空間の直和に分解されます。

[7] ここで,固有値が等しい空間Vj どおしを集めて分類し,

E(λk)=Vk1⊥・・・⊥Vkr ; k=1,2,・・・,m

とすれば,

V=E(λ1)⊥・・・⊥E(λm

となり,Vがその固有空間によって直交分解されることが分かります。 (証明終わり)


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以下,補遺


特に,Tの固有ベクトルが,e1e2,・・・en であるときは,

T|ek>=λk|ek

なので,

   T=ΣΣ|ej><ej|T|ek><ek|
    =ΣΣ|ej><ejk|ek><ek|
    =ΣΣλk|ej><ej|ek><ek|
    =Σλk|ek><ek|
    =ΣλkΛk

  T=ΣλkΛk

補題の別証

n次の正規演算子Aの固有ケットを |ak>,対応する固有値をak,ただし,k=1,2,・・・,n とする。
ABBAO を次のようにAの固有ブラ・ケットで挟むと,

aj|(ABBA)|ak>=ajaj|B|ak>−akaj|B|ak
              =(aj−ak)<aj|B|ak>=0

したがって,aj≠ak であれば,

aj|B|ak>=0

でなければならない。

特に,Aの固有多項式に重根がない(縮退がない)のであれば,「i≠j  ⇔ aj≠ak 」であり,これはAのn個の固有ケットを基底に選ぶとBも対角行列で表されていることを示している。

このとき,固有方程式は,

B|am>= |aj><aj|B|ak><ak|am
     =|am><am|B|am

つまり,|am>はBの固有ケットでもあり,その固有値は<am|B|am>で与えられる。 

もし,固有多項式に重根があるときは,同じ固有値が対角線上にまとまって現れるように基底を,

|a1(1)>,|a1(2)>,・・・,|a1(r)>,  |a2(1)>,|a2(2)>,・・・,|a2(s) ,|a3(1)>,|a3(2)>,・・・,|am(t)
固有値a1 固有値a2 ・・・

と並べ換えれば,演算子Aのこの並びの固有ケットによる表現行列は,

A
a1 0 0 O
0 : 0
0 0 a1
a2 0 0
0 : 0
0 0 a2
O
am

と対角行列となる。

一方,Bは異なる固有値をもつ固有ケットに対してaj|B|ak>=0であることを思い出せば,

B
b11 ・・ b1r O
br1 ・・ brr
b'11 ・・ b'1s
b's1 ・・ bss
O
bnn

と同じ固有値に対応する固有ケットを基底とする正方行列が対角線に並ぶブロック化された行列(直和分解)となる。ところがBは正規行列なので,ユニタリ行列[#]によって対角化可能であり,当然,すべての部分空間(ブロック)に制限してみても対角化できる。

つまり,一番左上のブロックを例に見ていくと,

|b1(i)>= uija1(j)>

によってユニタリ変換されたb1(i),(i=1,・・・,r)をこのブロックの基底に用いれば,|b1(i)>はBの固有ケットであり,

Bb1(i)>=bib1(i)

を満たす固有値bi が,基底変換後,このブロックの対角線上に並ぶ(他の行列要素は0)ようにできる。ところが,このケットにAを作用させてみると,

Ab1(i)>= uijAa1(j)> uija1a1(j)>  =a1b1(i)

すなわち,|b1(i)>は固有値a1に対応するAの固有ケットでもある。

他のブロック(部分空間)も同様であり,n個の基底,

|b1(1)>,・・・・,|b1(r)>,|b2(1)>,・・・・,|b2(s)>|,・・・・,|bm(t)

を考えると,ABの同時固有ケットとなっている。



2.正規行列の対角化 (8.定理2の別証)

[1]   正規行列に関するもっとも重要な定理をもう一度(再掲)。

定理2 [ 正規行列の対角化 ]

 n次元正規行列Tは適当なユニタリ行列 U によって,対角行列 D に変換できる。すなわち,

   U-1TU D

なる U が存在する。逆に複素n次元正方行列 T が対角化可能であるならば,T は正規行列である。

[証明]
 [必要性]   T が正規行列 ⇒ T が対角化可能

定理1よりベクトル空間 V 上の線形演算子 T が正規行列であるなら,ベクトル空間 V の任意のベクトルx  は一意的に,

xx1x2+・・・+xk 

ただし,

x1x11  +・・・+xss    ∈E(λ1,基底:Σ1={1, ・・・ ,s}  ; dimE(λ1=s
x2xs+1s+1+・・・+xs+ts+t  ∈E(λ2,基底:Σ2={s+1,・・・,s+t} ; dimE(λ2=t
     ・・・
xkxv+1v+1+・・・+xv+uv+u  ∈E(λm,基底:Σm={v+1,・・・,v+u}  ; dimE(λm=u

と書くことができ,x1,x2,・・・,xk はそれぞれ互いに直交しており,n=dimV =dimE(λ1+dimE(λ2+・・・+dimE(λm を満足します。

特に各固有空間 E(λk) の基底Σk を正規直交系になるように選んでおけば[#],これらの基底すべてを並べた,

Σ={1, ・・・,s,s+1,・・・,s+t,v+1,・・・,v+u}    

はV の正規直交基底となります。この基底におけるTの表現行列[#]は対角線上に固有値が並んだ対角行列Dです。すなわち,もとの正規直交基底からこの基底Σへの基底変換[#]を表すユニタリ行列をUとすれば,

U-1TUD
λ1 O
:
λ1
λ2
O :
λ2
:
λm

が成り立ちます。

[2] [十分性]    T が対角化可能   ⇒   T が正規行列 を示します。

 もし,T があるユニタリ行列で,

U-1TUD   (つまり,TUDU-1UDU*, T*UD*U*UD*U-1) [#]

と対角化されるならば,

TT* = (UDU-1)(UD*U-1) = UDD*U-1
T*T = (UD*U-1)(UDU-1) = UD*DU-1

となります。ここで対角行列は,DD*D*D なので結局,TT*T*T  がいえます。 (終)

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