5 ユニタリ空間
f-denshi.com  最終更新日:  04/10/11  
前章で当初の目的 である,「正方行列(線形演算子)はどのようなときに対角化可能か」という問題は解決したのですが,物理への広い応用(古典力学から量子力学まで)を考えた場合,一般的な正則行列Pによる対角化というのでは抽象的すぎることがあります。もう少し対象を絞った議論が重要となります。そこで,この章からは応用に際して重要な正規直交系で記述されるベクトル空間とユニタリ変換と呼ばれる対称操作を意味する変換行列を扱っていきたいと思います。
こちらも参照してください ⇒ 線形代数入門:[ベクトルの座標変換][座標変換][2階テンソル]

1.内積と正規直交基底

[1] 実数の場合[#]と同様に複素ベクトル空間に内積を導入することができます。複素ベクトル空間Vの直積[#],V×V から複素数 c への写像:

(x,y ) → c ; (x,y ) ∈ V×V, c ∈ C

内積いいます。ただし,次の条件を満たしていなければなりません。

[内積の定義](複素ベクトル空間)

λ∈C,x,y,zV  とするとき

(1) (λx,y ) =λ(x,y ) ; ←(3)より,(x,λy ) =λ*(x,y ) もいえます。
(2) (xz,y )=(x,y )+(z,y ) 
( )
(3) (x,y )= y,x    または,=(y,x )*     [ユニタリ計量]
(4) (x,x )≧ 0   ; 等号が成り立つのは x0 のときだけ
複素数についてはこちらを参照してください。 ⇒ [#]
ここでは,複素数 λの共役複素数をλ*と記述します。  λ* λ

[2] 複素ベクトル空間に内積が定義されているとき,それをユニタリ空間 と呼びます。

さらに次のような基本的な用語を定義しておきます。

(5)直交 : (x,y )=0 が成り立つとき,x とy とは直交している

といいます。他にもベクトルの大きさである,

(6) ノルム :|x|≡ (x,x )

および,

(7) 距離 : ρ(x,y )=|xy|

は実数の場合と同様に内積 [#] から導かれる基本概念の複素数への拡張です。

[3] 基底 Σ={1,2,・・・, } が次の条件を満たすとき,

 |j|= 1    まとめて ⇒ (j,k)=δjk
(j,k)=0 (j≠k)

これを 正規直交基底といいます。そして,

定理:
内積をもつベクトル空間に対して 正規直交基底 がかならず存在する。

ことが実数上のベクトル空間のときと同様に成り立ちます。(シュミットの直交化を参照のこと [#]  )

  この基底を用いると,任意のベクトルx について,

x = x11+x22+・・・+xnn
  
=(x,1)1+(x,2)2+・・・+(x,n)n   [正規直交基底による展開]

展開することができます。

[4] ここまでの議論からは実数を係数とする計量ベクトル空間からユニタリ空間への移行は特別な配慮が必要のない形式的なものに見えますが,内積を成分で具体的に表していこうとするところから内積の定義(3)に基づく違いが現れてきます。

 まず,正規直交基底を用いてベクトルxy が, ( 標準基底ならば,j*

x = x11+x22+・・・+xnn x *= x1*1*+x2*2*+・・・+xn*n*
y
= y11+y22+・・・+ynn ; y *= y1*1*+y2*2*+・・・+yn*n*

と表せるとき( 標準基底ならば,j* ),内積を成分を用いて,

(x,y )= x1y1*+x2y2*+・・・+xnyn* [ 内積の成分表示(正規直交系)]

のように与えれば,複素ベクトル空間の内積の定義を満足させられることが確かめられます。すると,同じベクトルx でも,

(x,z )のときは, x  = x11 +x22+・・・+xnn
(z,x )のときは, x *= x1*1*+x2*2*+・・・+xn*n* 

とみなす必要があり,紛らわしいことになります。

[5] この規則をすっきりと明示した記法としては,物理学者のディラックが考案した量子力学で使われる記号が優れています。 それは,数 xj に対応する共役複素数を xj* などとして,

(縦)ベクトル [ケット]:  x  ⇒ |x >≡ x1
x2
:
xn
(横)ベクトル [ブラ] :  x * ⇒ <x|≡(x1*,x2*,・・・,xn*)

と書く方法です。すると,内積は行列計算規則(縦ベクトルはn行1列,横ベクトルを 1行n列の行列です! )にしたがって,

(x,y ) ⇔ <y|x >≡(y1*,y2*,・・・,yn*) x1 =x1y1*+x2y2*+・・・+xnyn*
x2
:
xn
   ↑ xy の順序が逆なのに注意

と計算することができます。さらにこの記法では,基底にも異なる記号を当てることになるので紛れがありません。つまり,

      x  ≡ x11 +x22+・・・+xnn
   |x > ≡ x1|1>+x2|2>+・・・+xn|n> ≡ x1
x2
:
xn

に対して,   

x* ≡ x1*1*+x2*2*+・・・+xn*n* 
  <x |≡ x1*1|+x2*2|+・・・+xn*n|≡(x1*,x2*,・・・,xn*)

と書けるからです。ここで直交条件,(j,k )=δjk  は,

k|j>=δjk    ← <1|=(1,0,・・・,0) [標準基底] など

となります。このように記述するとあたかも2つのベクトル空間が存在しているように思えますが,xx* とが属するベクトル空間は同一視可能である同型なベクトル空間なのです。

(ここでのブラとケットの関係は線形代数(2〜4章)で学んだ双対空間[#] の関係として捉えることができます。すなわち,
xj    [成分]      ⇔  xj [反変成分]
xj*   [共役成分]  ⇔  xj [共変成分]
|ej> [基底ケット]  ⇔  ej [共変基底]
ej| [基底ブラ]   ⇔  e
j [反変基底]
k|j>=δjk     ⇔  (ej,ek)=δjk   [直交関係]
とみなせるからです。)

[6] ユークリド空間における正規直交系でのベクトルの成分表示[#]を参考に,

|x > = x1|1>+x2|2>+・・・+xn|n
      =<1|x>|1>+<2|x>|2>+・・・+<n|x>|n
 = x1 1|x >
x2 2|x >
: :
xn n|x >

同様に,    (上の表示で, |x > ⇒ T|k> と置き換えれば, )

T|k> ≡ 1|T|k
2|T|k
:
n|T|k

したがって,1章で示したように[#]演算子 T の行列成分表示は次のようになります。

T=[T(1)T(2)・・・T(n)]  ⇔ T e1|T|e1> <e1|T|e2> ・・・<e1|T|en
e2|T|e1> <e2|T|e2> ・・・<e2|T|en
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
en|T|e1> <en|T|e2> ・・・<en|T|en
↑   T(k) ⇔ T|k> と対応させています。

つまり,与えられた基底の下での線形演算子T の表現行列のj行k列成分は <ej|T|ek> と言うことになります。

[7] また,

(Tx,y )*Tx*T**x =(T*y)*x(x,T*y )

なる関係は,ブラ・ケットで表すと,

(Tx,y ) ⇔   |{ T|x >} = < |T|x > = {<|T }|x
        ⇔  (x,T*y )

という結合法則を表しています。ここで,T* T の随伴行列[#]で,線形演算子T に対する随伴演算子と呼ばれます。スカラーに対しては,

(xy ) =(λy,x )*=λ*(y,x )*=λ*(x,y )          ← 内積の定義 [#] をもう一度確認!

というのもいろいろな計算に必要となります。

まとめ,

[ 公式 ]
     
(1) (Tx,y) =(x,T*y)
(2) (xy ) =λ*(x,y)


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