1 線形写像
f-denshi.com  最終更新日:04/09/20  
「線形代数入門」の続編です。連立1次方程式論,線形写像の知識をさらにユニタリ空間の固有値論に発展させて,量子力学(行列力学)を理解するための基礎知識となるようにしました。

1.複素ベクトル空間と線形写像

線形写像についての復習から始めましょう。

[1] 複素数 C上の n次ベクトル空間V が与えられており,

x1x2 ∈V ,c∈C  → x1x2 ,cx1,cx2 ∈V

とします。また,このベクトル空間V からベクトル空間V への写像: T において,線形性:

(1) T(x1x2)= T(x1)+T(x2)    
(2) T(cx1)   = cT(x1)       ; かつ,T(x1x2),T(x1),T(x2)∈V

を満たす写像 T[#]V上の線形写像,または線形関数線形作用素線形演算子などといいます。どれも同じ意味ですが,最初の2つは一般的な用語であるのに対して,後の2つは固有値論(スペクトル理論)に対して好んで使われる用語で,数学者は線形作用素,物理学者は線形演算子という用語をよく使う..のかな?

[2] 次に線形写像が行列Tで表現可能であることの確認です。

 V の基底を,Σ={e1,e2,・・・,en }とします[#]。この基底のもとで,線形写像 y = T(x ) :

x = x1e1+x2e2+・・・+xnen   ⇒ y = y1e1+y2e2+・・・+ynen
成分で書くと,x x1     ⇒    y y1
x2 y2
: :
xn yn

を考えます。特別な場合として,各基底ベクトルek が線形写像T によって移る先のベクトル T(ek) を,

T(ek)=T1ke1+T2ke2+・・・+Tnken Tjkej
 Tjk∈C  ( k=1,2,・・・,n )

すなわち,

T(e1)= T11  ,・・・,T(en)= T1n      (この成分は座標系を定めれば既知) 
T21 T2n
: :
Tn1 Tnn

とおきます。 一方,任意のベクトル: x について,T の線形性から,(1)(2)を用いて,

y = T(x)
  = T(x1e1+x2e2+・・・+xnen )
  = x1T(e1)+x2T(e2)+・・・+xnT(en)

これを先程の T(e1),・・・ ,T(en)を代入して書き表すと,

   y y1
y2
:
yn
= x1 T11  + x2 T12 + ・・・ + xn T1n
T21 T22 T2n
: : :
Tn1 Tn2 Tnn
x1T11+x2T12+・・・ +xnT1n
x1T21+x2T22+・・・ +xnT2n
  :   ・・・・・ :
x1Tn1+x2Tn2+・・・ +xnTnn
T11 T12・・・ T1n x1  = Tx
T21 T22・・・ T2n x2
: ・・・・・ : :
Tn1 Tn2・・・ Tnn xn

と書くことができます。

[3] すなわち,

    y = T(x ) [線形写像]  ⇔ yTx [ 行列の演算 ]

という対応づけが可能で,行列T は列ベクトル T(ek) を並べて作られる正方行列 T:

T = ( T(e1),T(e2),・・・,T(en))= T11 T12・・・ T1n
T21 T22・・・ T2n
: ・・・・・ :
Tn1 Tn2・・・ Tnn
で与えられる。

ことがわかります。つまり,

「線形写像の性質を正方行列の性質に帰着させて調べることができる。」 

のです。そして,この行列Tを,” 基底ΣにおけるV上の線形写像Tの行列表示 または,表現行列 と言います。しかし,行列が線形写像を表していることが明白な場合,行列T そのものを先程述べた[#]ように,線形作用素 T線形演算子 T と呼びます。

2.線形写像の合成といくつかの公式

[1] 正方行列が任意の線形写像の代わりになるならば,写像の合成逆写像といった”写像の演算”もある行列計算で代用されるはずです。そこでまず,これを見ておきましょう。

n次正方行列は自由に掛け合わすことができますが,行列の積はそれぞれの行列に対応する写像の合成に相当します。たとえば,線形写像 T,S について,

y  = T(x ) = Tx
z  = S(y ) = Sy

とすると,

zSy  = S(Tx )(ST)x

最後の””は行列の計算規則における積に関しての”結合法則”をもちいています。つまり,行列の積 (ST) はxz に対応させる写像で,普通,それは合成写像を表す記号oを用いて,

z = SoT(x )

とかくので,

S oT  [写像の合成]   ⇔  ST  [行列の積]
x T y
 → 
T
, 
y S z
 → 
S
,⇔ 
x S oT z
 → 
ST

という対応があります。  (しばしば,行列の積の記号 ” ” は省略します。)

[2] 一方,行列T で表される写像の逆写像に対応する行列はその逆行列T-1 で与えられます。なぜならば,

y = T(x ) = Tx

に左からT -1 を掛ければ,

T -1y  = T -1Tx  = Exx

つまり,T -1y x に対応させる写像: T -1(y ) = x で,

T -1 [逆写像] ⇔ T -1   [逆行列]

であることがわかりました。

[3] 一方,2つの線形写像 T,S の和: TS とスカラー c と積 cT を

[ TS ](x) ≡ T(x)+S(x),および, [cT](x) ≡ cT(x)

と定義すれば,その表現行列C,および C’は T,S の表現行列 TS を用いて,

C =TS   ,および C’=cT

で与えられることは,

Cx =(TS)x =TxSx ⇔  [TS](x) ≡ T(x)+S(x)

のような計算(対応)ができることからわかります。    双対空間を思い出しましょう⇒ [#]

[4] 最後にこれからよく使うことになる簡単な公式をまとめておきましょう。

多項式: f(t) から線形写像: f(T) への対応を,( 単純に t → T,1 → I とした )

f(t)= tn+tn-1+・・・+t+1      f(T) = TnTn-1・・・TI 

定義します。ただし,Tk は T を k 回,合成した合成写像:T oT o・・・ oT,および,I は恒等写像です。すると,

(1) p(t) = f(t) +g (t)    ⇒  p(T)= f(T) g(T)
(2) p(t) = f(t)g(t)        ⇒  p(T) = f(T)og(T)
(3) cf(t)          ⇒  cf(T)
(4) p(T)oq(T) = q(T)op(T)  特に, p(T)oT   =  Top(T)

が成り立ちます。この4つの公式はこれまで述べてきたように,「線形写像:T  ⇔ その表現行列:T 」 なる対応があるので,T をその表現行列Tに置き換えて計算すれば自明なことです。ただし,I ⇒ E (単位行列)とします。

例えば,(2)は,

f(t)=t2+1, g(t)=t+1, p(t)=t3+t2+t+1 

であるときは,

(t2+1)(t+1) = t3+t2+t+1 ⇔   f(t)g(t) = p(t)

が成り立っていますが,ここで,t → T , 1 → E と機械的に置き換えて,

(T2E )(TE) = T3T2TE

が成り立つことをいっているのです。この恒等式の証明は行列の計算方法を知っていれば簡単ですね。 

さらに(4)に関しては,

(T3T2TE )TT(T3T2TE )

などを意味しています。

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以下著者用のメモ書き

1章に追加:

線形写像Tの行列表現をT とするとき,

Tは同型写像である。  ⇔  T は正則行列である。   (この2つは同値)

た,正規基底{e1,e2,・・・,en }のもとでの線形写像 T の表現行列T のj , k 成分 Tjkは,

ej*Tekej*T(ek) = (0 ・・・ 0 1 0・・・0)
↑ j 列目
T1k  = Tjk
T2k
:
Tnk

と計算できることがわかります。すなわち,

基底{e1e2,・・・,en }における線形写像T の表現行列 T
 T e1*Te1 e1*Te2 ・・・・e1*Ten
e2*Te1 e2*Te2 ・・・・e2*Ten
・・・・・・・・・・・・・・
en*Te1 en*Te2 ・・・・en*Ten