8 2階テンソル
f-denshi.com  最終更新日:07/10/20

1. 2階テンソルのいろいろ

[1] 2階テンソルは双線形関数を用いて定義することが本質的です。しかし,応用でよく見かける2階テンソルは必ずしもそのような形で明示されているとは限りません。多くの教科書では座標変換(基底変換)に対して成分が前章で導いたテンソルの座標変換規則,

T'jk=ΣsΣt psjptkTst
[ 共変テンソルの座標変換 ] ⇔ ベクトル変換 x'j = Σ pkjxk
T'jk=ΣsΣt qjsqktTst
[ 反変テンソルの座標変換 ] ⇔ ベクトル変換 x'j = Σ qjkxk

と同じように変換されること(=テンソル変換を受けるといいます。)をテンソルの定義としています。ここでは次の重要な写像が2階テンソルとして座標変換を受けることからこれらがテンソルであることを確認してみましょう。

写像:V ⇒ R (双線形性) (1)写像:V ⇒ V (線形写像) (2)テンソル積 V ⇒ V
ベクトルxy
⇒ スカラーT(x,y )
ベクトルx
⇒ ベクトルT(x )
ベクトルx
⇒ ベクトルT(x )
T(x,y )=Tjkxjyk
Tjk≡T(ej,ek)
T(x )=Ty
T(ek)=Σ Tjkej
T(x)=a(bx )
Tjkej・T(ek)=ajbk
2重線形性
T(ax+bz,y )=aT(x,y)+bT(z,y)
線形性 
T(ax+by)=aT(x)+bT(y)
線形性 
T(ax+by )=aT(x)+bT(y)
↑ 添え字はすべて下につけています。

(1)線形写像(行列)の座標変換

[2] ベクトル空間 V から V への線形写像 T : [ベクトルx ∈V  ⇒  ベクトルy  ∈ V ] :

y =T(x ) 

も2階テンソルとなります。これは,V の正規直交基底e1e2e3 }に対して,

T(e1)=T11e1+T21e2 +T31e3
T(e2)=T12e1+T22e2 +T32e3
T(e3)=T13e1+T23e2 +T33e3

のようにテンソル成分 Tjk を定義すれば,写像T,

T: x = x1e1+x2e2+x3e3 x1    ⇒   y = y1e1+y2e2+y3e3 y1
x2 y2
x3 y3

は行列の演算規則を使って,

y = T(x )
   =T(x1e1+x2e2+x3e3)
   =x1T(e1)+ x2T(e2)+x3 T(e3)
  = x1(T11e1+T21e2+T31e3 )+x2(T12e1+T22e2+T32e3)+x3(T13e1+T23e2+T33e3)
  = x1 T11 +x2 T12 +x3 T13
T21 T22 T23
T31 T32 T33
  = x1T11+x2T12+x3T13
x1T21+x2T22+x3T23
x1T31+x2T32+x3T33
  = T11 T12 T13 x1  = Tx      [座標変換前
T21 T22 T23 x2
T31 T32 T33 x3

と書けます。 ただし,T は Tjk を j 行 k 列成分とする正方行列。

 

さて,新しい正規直交基底への座標変換によって, y → y ', x →x ' , T → T', ただし,

y'= T'x '  [座標変換後]

と表せるとします。いま,座標変換を,xPx' (つまり,x' =P-1xy' =P-1y )とすれば,これを[座標変換後]に代入し,左からPをかければ,

P-1yT'P-1x  ⇒ y =PT'P-1x  

となります。これを座標変換前と比較すれば,

行列の座標変換式:

      TPT'P-1  または, T' = P-1TP     ( xPx' )

でなければならないことがわかります。これを成分で書く[#]と,  

Tjk =pjsT'st t(ptk) =pjspktT'st     ← P-1の逆行列がt(ptk) =pkt で与えられるとしています。(正規直交基底なので)

となり,Tjkはテンソル変換[#]を受けることがわかります。

(2)テンソル積の座標変換

[3] テンソル積の定義

2階テンソルは次に述べるテンソル積によってもつくられます。(2階の)テンソル積とは,ベクトルab ∈V が与えられたとき,
写像 T: x → y を,

y = T(x )=a(bx )

と定義するとき,この写像 T(x ) を

a b(x )

と書いて,「 ベクトルabテンソル積 」と定義します。これは行列,ベクトルの演算で具体的に表すと,

T(x ) =a (bx )= a1 (b1x1+b2x2+b3x3)= a1 (b1,b2,b3) x1
a2 a2 x2
a3 a3 x3
         = a1b1  a1b2  a1b3 x1 Tx
a2b1  a2b2  a2b3 x2
a3b1  a3b2  a3b3 x3

と書くことができます。これは,

Tjk≡ajbk

を成分とする行列 T による線形写像であることを意味しています。これがテンソル変換を受けることはベクトルの座標変換が,

ajΣspjsa's および,   bk Σt qtkb't

で与えられるとき,

Tjk=ajbkΣs pjsa'sΣtqtkb'tΣsΣtpjsqtka'sb'tΣsΣtpjsqtkT'st

に従って座標変換されることからわかります。これはTが反変ベクトル変換と共変ベクトル変換が混じりあった混合テンソル変換を受けることを示しています。

なお,V の正規直交基底{e1e2e3 }に対して,

ej・T(ek)=eja(bek)=(eja )(bek)=ajbk




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補足:

量子力学では反変ベクトルを,

ケット =|a>= a1 a  [縦ベクトル]
a2
a3

共変ベクトルは,

 ブラ =<b|=(b1,b2,b3)=b  [横ベクトル]

のように書きます。量子力学では一般に複素数を成分とするベクトル空間(=ユニタリ空間Cn)で考えて,縦ベクトルを横ベクトルに書き換えるときは複素共役をとる必要があります[#]。この表記では,添え字の上下はベクトルの縦横の向きから判断できるので普通は表記はしませんが,ここでは反変,共変ベクトルとの対比のために付けています。

もし,この表記において成分を実数とするユークリッド空間に制限,すなわち,ab∈V=Rn とすれば,ブラとケットはベクトル成分を縦に並べるか横に並べるかだけの違いでしかありませんが,ケット空間をベクトル空間V ,それと同型なブラ空間を双対ベクトル空間V* とみなすと,|a>はV上のベクトル変数,<b|は,VからVへの線形写像とみなすこともできます。(|a>∈V,<b|∈V*ということ。)

すると,ブラ-ケットの順の計算は次のようになり,内積(縮約)を計算することに相当します。

(b1,b2,b3) a1 =b1a1+b2a2+b3a3  [スカラー]
a2
a3

この計算から内積とはベクトルa を線形写像b によって,あるスカラーに対応させることと理解できます[標準同型対応]。

一方,ケット-ブラの順の計算(テンソル積)は,

a><b|= a1 (b1,b2,b3) = a1b1  a1b2  a1b3    [2階テンソル]
a2 a2b1  a2b2  a2b3
a3 a3b1  a3b2  a3b3

となり,先程本文中で計算したとおりの2階テンソル(行列)を与えます。この行列を例えばケットc>∈V に作用させると,一般に異なるケット|a><bc=<bca を生成します。つまり,|a><b|はVからVへの線形写像を与えてます。

つまり,1階テンソルであるベクトル空間Vとその双対ベクトル空間V*から1つずつ元をとって,内積をとれば,0回テンソルが得られ,テンソル積をとれば,2階(混合)テンソルが得られることを上の計算は示しています。

そして,このようにして得られた2階混合テンソルを(1,1)型の2階テンソルと呼びます。一方,(1)線形写像(行列)の座標変換で示したベクトルをベクトルへ移す線形写像を表す行列Tは添え字が2つとも上付き(反変的)であることから(2,0)型の2階テンソルと呼びます。

さらに(1)の結果を転置した,tytTtx を考えることに相当する(0,2)型の2階テンソル tTも存在します。このtT は横ベクトルを横ベクトルへ対応させる線形写像であり,横ベクトルが写像を意味していることを思い出せば,tTは線形写像を線形写像に対応させる線形写像(V**=V)であると推察できますが,このことは(1)と同様な計算(添え字の上下は逆になる)できちんと示すこともできます。





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