8 正規部分群
f-denshi.com  最終更新日:  04/04/18

 前章では群に同値関係を導入するために a を含む左剰余類,aH={a・h | h∈H}を考えましたが,同様に右剰余類,Ha={ h・a | h∈H }を考えることができます。この二つの剰余類は一般的には一致しません。(S1,S2,・・は一致しません。)この2つが一致するかしないかは,可換群と非可換群の中間にある群の分類や特徴付けに利用されます。

1.部分群S1による右剰余類

[1] 左剰余類別と同様に,正四面体群 G の S1 ={e,a1,b1}による右剰余類,S1x={s・x | s∈S1} を求めましょう。
  正四面体群表から抜き出した下の表:

XY e a1 b1 a2 b4 hx a3 b2 hz a4 b3 hy
e e a1 b1 a2 b4 hx a3 b2 hz a4 b3 hy
a1 a1 b1 e b4 hx a2 b2 hz a3 b3 hy a4
b1 b1 e a1 hx a2 b4 hz a3 b2 hy a4 b3

から,

S1a1=S1b1=S1e ={a1,b1,e }
S1a2=S1b4=S1hy={a2,b4,hx
S1a3=S1b2=S1hx={a3,b2,hz
S1a4=S1b3=S1hz={a4,b3,hy

すなわち,四面体群 G の部分群 S1 による右剰余類は,

{a1,b1,e},{a2,b4,hx},{a3,b2,hz},{a4,b3,hy

となります。これを先に求めた部分群 S1 による左剰余類[#]

{a1,b1,e},{a2,b3,hz},{a3,b4,hy},{a4,b2,hx

と比べてみると,

群 G の部分群 S1 による類別は,[右剰余類] ≠ [左剰余類]

であることがわかります。

2.部分群Hによる右剰余類

[1] 次に正四面体群 G の H による右剰余類を考えてみます。下表を参考にして

XY a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4 e hx hy hz
e a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4 e hx hy hz
hx a4 a3 a2 a1 b2 b1 b4 b3 hx e hz hy
hy a3 a4 a1 a2 b4 b3 b2 b1 hy hz e hx
hz a2 a1 a4 a3 b3 b4 b1 b2 hz hy hx e
 正四面体群表の抜粋
Ha1=Ha2=Ha3=Ha4 ={a1,a2,a3,a4}= A
Hb1=Hb2=Hb3=Hb4 ={b1,b2,b3,b4}= B
He =Hhx=Hhy=Hhz ={ e,hx,hy,hz}= H

となります。この結果をHによる左剰余類[#]と比べてみれば,

群 G の部分群 H による類別は,[右剰余類] = [左剰余類]

このように[右剰余類]=[左剰余類]を与える部分群H を正規部分群といいます。

[2] きちんと書いておくと,

定義

部分群 H がすべての元  g∈G に対して,

(1) gH = Hg

がなりたつとき,部分群 H を正規部分群という。  または,

        (2) gHg-1 ⊂ H 

と定義しても同じ。

群G が可換群の場合,そのすべての部分群が正規部分群となることはすぐにわかります。一方,その逆のケースとして,群G の自明な正規部分群である G自身 と 単位元だけからなる集合以外には,正規部分群を持たないような群もあります。このような群を単純群と言います。ここで調べた正四面体群は2つのタイプの中間にあるわけです。

3.商群

[1] 正規部分群による剰余類,A,B,H は集合ですが,この集合を元とする集合,つまり,集合の集合を考えることで新しい群を構成することができます。このようなことは正規部分群ではない部分群,S1,S2 にはない性質です。具体的には,

A={a1,a2,a3,a4
B={b1,b2,b3,b4
H={ e,hx,hy,hz

と置き,集合 A,B,H を元とする集合 {A,B,H } を考えるわけです。この元(=剰余類)どうしの演算 * として,

H*B={hB | h∈H }   ,ただし, hB={hb1,hb2,hb3,hb4

のように定義します。ここで hがe,hx,hy,hzのいずれであっても,hBは,

eB={eb1,eb2,eb3,eb4 }    ={b1,b2,b3,b4
hxB={hxb1,hxb2,hxb3,hxb4 }={b2,b1,b4,b3
hyB={hyb1,hyb2,hyb3,hyb4 }={b4,b3,b2,b1
hzB={hzb1,hzb2,hzb3,hzb4 } ={b3,b4,b1,b2,}

となり,この4つの集合は,b1,b2,b3,b4 の並び順が変わるだけで同じです。結局,剰余類の演算結果として,

H*B  ⇒ {b1,b2,b3,b4 }=B

と一つ定めることができます。 これは,代表元を用いた記法では,eH*b1H = eb1H =b1H と書けます。

同様に,

A*H = H*A = A,  ( a1H*eH = eH*a1H = ea1H =a1H)
B*H = H*B = B,     ( b1H*eH=eH*b1H=eb1H=b1H)
H*H = H                  ( eH*eH =e・eH = eH)

とできることもわかります。さらに同じ規則のもとで,

A*B = B*A = H   ( a1H*b1H=b1H*a1H=a1b1H=eH )
A*A = B                  ( a1H*a1H = a1a1H = b1H )
B*B = A                  ( b1H*b1H = b1b1H = a1H)

とすべての剰余類どおしに合理的な演算となっています。  ( B=A-1 となっていることもわかりますね。)

この演算規則は代表元を用いた書き方を用いれば,

xH * yH = xyH  [ 正規部分群による剰余類間の演算 * の定義 ]

と定義されていることになります。

[2] したがって,集合の集合 {H,A,B } は演算 * のもとで群をなし,左下の群表のようになります。

* H A B
H H A B
A A B H
B B H A











XY e hx hy hz a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4
e e hx hy hz a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4
hx hx e hz hy a4 a3 a2 a1 b2 b1 b4 b3
hy hy hz e hx a3 a4 a1 a2 b4 b3 b2 b1
hz hz hy hx e a2 a1 a4 a3 b3 b4 b1 b2
a1 a1 a2 a4 a3 b1 b4 b2 b3 e hz hy hx
a2 a2 a1 a3 a4 b3 b2 b4 b1 hz e hx hy
a3 a3 a4 a2 a1 b4 b1 b3 b2 hy hx e hz
a4 a4 a3 a1 a2 b2 b3 b1 b4 hx hy hz e
b1 b1 b4 b3 b2 e hx hz hy a1 a3 a4 a2
b2 b2 b3 b4 b1 hx e hy hz a4 a2 a1 a3
b3 b3 b2 b1 b4 hz hy e hx a2 a4 a3 a1
b4 b4 b1 b2 b3 hy hz hx e a3 a1 a2 a4
商群 G/H (≡Z3 元のGの群表

この群を商群 G/H と言います。ここで,H が商群の ”単位元” であることに注意してください。まとめると,

「 正規部分群 H による左剰余類と右剰余類は一致し,その剰余類は商群をなし,H がその単位元となります。」

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以下とりこぼし,

組成列

正四面体群 G は交代群 A4 と同じ群ですが,これがS4の正規部分群であることは,

sgn(g・A4・g-1)=sgn(A4)sgn(g)sgn(g-1)=+1, g∈G ⇒ g・A4・g-1∈A4
gg-1=e(偶置換)なので,sgn(g)とsgn(g-1)の符号は等しい。

からわかります。また,H は今示したようにA4の正規部分群で,さらに N={e,hx} が H の正規部分群,{e}がNの正規部分群なので,結局,

S4A4 ⊃ H ⊃ N ⊃ {e}

というような包含関係が存在し,位数は24,12,4,2,1なのでこれらの中間に他の部分群は存在しません。さらに,商群,

S4 / A4A4 / H, H / N, N / {e}

は位数2,3,2,2の巡回群で,これらは単純群です。このような 「 G から{e}への正規部分群の系列 」 を組成列と言います。

定義

群Gの部分群からなる包含関係にある列,

G⊃ G1 ⊃ ・・・ ⊃ Gj ⊃ Gj+1 ⊃ ・・・

において,いずれのGj+1もGjの正規部分群であるとき,この列を正規鎖といい,剰余群Gj/Gj+1 が単純群であるとき,この列を組成列という。


正四面体群(=A4)の正規部分群Hの正規部分群Nx={e,hx}による類別,および,商群は,M={hy,hz} として,

XY e hx hy hz
e e hx hy hz
hx hx e hz hy
hy hy hz e hx
hz hz hy hx e
XY N M
N N M
M M N

部分群S1による左右の類別を考慮して,正四面体群の群表を整理すると下図のようになる。

XY e a1 b1 hx a2 b4 hy a4 b3 hz a3 b2
e e a1 b1 hx a2 b4 hy a4 b3 hz a3 b2
b1 b1 e a1 b4 hx a2 b3 hy a4 b2 hz a3
a1 a1 b1 e a2 b4 hx a4 b3 hy a3 b2 hz
hx hx a4 b2 e a3 b3 hz a1 b4 hy a2 b1
b2 b2 hx a4 b3 e a3 b4 hz a1 b1 hy a2
a4 a4 b2 hx a3 b3 e a1 b4 hz a2 b1 hy
hy hy a3 b4 hz a4 b1 e a2 b2 hx a1 b3
b4 b4 hy a3 b1 hz a4 b2 e a2 b3 hx a1
a3 a3 b4 hy a4 b1 hz a2 b2 e a1 b3 hx
hz hz a2 b3 hy a1 b2 hx a3 b1 e a4 b4
b3 b3 hz a2 b2 hy a1 b1 hx a3 b4 e a4
a2 a2 b3 hz a1 b2 hy a3 b1 hx a4 b4 e

正規部分群ではないS1によって商群は作られない。