3 置換群
f-denshi.com  最終更新日:  09/01/11   反対称関数についての式の間違い訂正しました。

 前章では正多角形の回転という具体的なイメージで捕らえられる巡回群について述べましたが,この節ではもう少し抽象化された置換群について学びます。

1.置換

[1] 6つの元からなる集合:M の元を 1から6までの番号で表して,M={1,2,3,4,5 6} とします。基本となる元の並び方(順列)を, 1,2,3,4,5,6 として,これに任意の順番を換えた並び(←元通りの1,2,3,4,5,6 の並びも含めます),例えば,2,3,4,5,6,1 の順にそれぞれ元を置き換える変換(=写像)σ:

1→2, 2→3, 3→4, 4→5, 5→6, 6→1

6文字の置換といいます。←M が n 個の元からなれば,n 文字の置換といいます。この写像を,

σ= 1 2 3 4 5 6
2 3 4 5 6 1

と書くことにします。M の元(番号)を正六角形の頂点(の番号)に見立てれば,上の置換σは前のセクションで考えた回転群:R6 の元 g1 と同じ内容であることが察せられます。ただし,回転操作の種類は6とおりだった (|R6|=6) のに対して,M について考えられる置換の数は,6!=720 (= 6 の順列の数) とおりも存在します。

[2] 巡回群の元のいずかに対応づけ可能な(回転操作に対応している)置換は特に,巡回置換とも呼ばれ,上のようなσの場合,

σ=g1=(123456)      

と書かれます。また,巡回置換に現れる文字数を巡回置換の長さと言います。上のσの長さは6です。 

[3] さて,置換として,2,4,6 を不動のまま,1,3,5 について,1→3,3→5,5→1 を順に対応させる,

 σ’= 123456
325416

という置換を考えることもできます。この置換は3文字の巡回群の元の一つに対応づけ可能で,巡回する元だけを取り出して

σ’=(135)

と略して書くこともあります。特に2つの元だけを巡回させる(交換する)置換

  ( i,j )

互換といいます。また,何も変化させない置換を恒等置換と言います

[4] ここで置換の定義をしっかりと書いておきましょう。

置換:

有限個の元からなる集合 M={1,2,・・・,n} からM自身への上への1対1写像,
σ: 1→i,2→j,・・・,n→k  

置換といい,

σ= 1 2 n      ← 一般的な記法
i j k

特にn=2のとき互換という。

2.対称群Sn

[1]  n 個の要素からなる集合Mに作用する置換の総数は,n 個の要素の順列並び,n!通りありますが,これらの元全体(置換全体)の集合は,置換を続けて行うことを置換の積として定義すれば,この演算について群をなします。例えば,2つの置換

σ1 1 2 3 4 ,σ2 1 2 3 4
1 3 4 2 3 2 4 1

の積,σ1σ2 は次のような合成写像,σ1σ2とみなし,σ2の置換を行ってから引き続いてσ1を行うことと定義します。

1 2 3 4 1 2 3 4
σ2 σ1σ2≡σ3
3 2 4 1
σ1
4 3 2 1 4 3 2 1

この合成写像を置換の演算として書くと,

σ1σ2 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 =σ3
1 3 4 2 3 2 4 1 4 3 2 1

となります。このようにして定義される群をn次の対称群と名づけてSn ≡{σj|j=1,2,・・・,n!} と書きましょう。この群は代数学のみならず,非常に広い分野において重要な役目を果たしています。

  まず,基本となる性質をひとつ。 

定理
任意の置換は互換の積で表せる。 ( ⇔ 対称群は互換によって生成される。)  

ここで,置換の積とは回転群のときと同様に二つの操作(置換)を続けておこなうこととします。

この定理は2段階で証明できますが一般論は添え数字が複雑なだけなので具体例で見て理解しましょう。

ステップ1: Sn の任意の元(つまり置換)はいくつかの巡回置換の積で表せる

[2] 例として,下の置換σを巡回置換の積で表してみましょう。

  σ= 1 2 3 4 5 6 7 8 9
7 3 1 6 2 8 9 4 5

は,左上の1から順に元の動きを順に眺めていくと,

1→7, 7→9, 9→5, 5→2, 2→3, 3→1

とたどっていき,巡回することがみいだせます。これを表す巡回置換,

τ1 = (179523)

と記述しましょう。もちろんここにでてこなかった, 4,6,8 はτ1 によっては動きません。

[3] 次にここまで不変だった元のうち一番小さな4からスタートして,

4→6, 6→8, 8→4

とたどってみると,4,6,8 だけを動かす巡回置換,

τ2 = (468)

をσの中に見いだすことができます。そしてこれですべての数字が出揃いました。

[4] 従って,置換σは巡回置換τ1とτ2を続けて行うこと,つまり,σが

  σ=τ2・τ1

と2つの巡回置換の積で表せることがわかりました。このやり方を使えば,任意のn文字の置換が最終的にいくつかの巡回置換の積で表せることは容易に推測できます。

[5] さらに,

ステップ2: 任意の巡回置換は互換の積で表せる。

ことがも示せます。たとえば,恒等置換 e に次のように互換を順に作用させて,

1 2 3 4 5 = e
1 2 3 4 5
   
1 2 1 2 3 4 5 =(12) e ⇔ 1 2 3 4 5 =(12)
2 1 1 2 3 4 5 2 1 3 4 5
   
1 3 1 2 3 4 5 =(13)(12) ⇔ 1 2 3 4 5 =(13)(12)
3 1 2 1 3 4 5 2 3 1 4 5

同様に互換,(14),(15)を順かけていくと結局,

(12345)= 1 2 3 4 5 =(15)・(14)・(13)・(12)
2 3 4 5 1

と巡回置換(12345)は4つの互換の積になります。文字数が増えてもどのような並びであっても同様なのは言うまでもないでしょう。

結局ステップ1,2 より定理:「任意の置換は互換の積で表せる」が成り立ちます。さらに,互換が,

(ij)=(1i)(1j)(1i)

と表されることから,

Sn は,(1i) ,i≠1 の形の互換によって生成される。」

ということもできます。

[6] しかし,その表し方は一意的ではありません。なぜなら,例えば,何もしないことに等しい恒等置換e はe=(12)・(12)=(12)・(12)・(13)・(13)=・・・ などと偶数個の同じ互換の積をかけ合わせて表すことができるので任意の置換σは,

σ=σ・(12)・(12)=σ・(12)・(12)・(13)・(13)=・・・・・

と何通りにも書くことができるからです。 しかし,互換の数が偶数であるか,奇数であるかは置換ごとに決まっています。その数が偶数の場合を偶置換,奇数の場合を奇置換といいます。これを置換の符号といい,

sgnσ=  1 (σが偶置換)
-1 (σが奇置換)

と書きます。物理の分野ではこれを置換σのパリティーと呼び,「sgnσ」の代わり,「 δσ  」 のような記号を用いることがあります。

[7] 特に巡回置換の長さによって,

巡回置換σの長さ = 奇数  ⇒ σは偶置換
偶数  ⇒ σは奇置換

であることは容易に確かめられます。

3.交代群 

[1] 偶置換全体の集合,奇置換全体の集合について次の定理が成り立ちます

定理
(1) n 次の対称群の中から偶置換をすべて抜き出してつくった(部分)集合は群をなす。
(2) n 次の対称群に含まれる偶置換の個数と奇置換の個数は等しい。

 (1)の偶置換全体からなる群を,n 次の交代群といい,An と書きます。群をなすことは,単位元は偶置換に含まれていること,任意の偶置換の逆元が偶置換の中に見いだされることは,偶置換を互換の積で a・b・c・d とすれば,その逆元は d・c・b・a で与えられることからわかります。

2] 偶置換の個数と奇置換の個数が等しいことも,偶置換σi から奇置換への対応: 

σi  → (12)・σi =τi , σi∈偶置換全体

が中への写像であること(偶置換の個数≧奇置換の個数)。逆に奇置換τから偶置換への対応: 

τi → (12)・τi=σi, τi∈奇置換全体

が中への写像である(偶置換の個数≦奇置換の個数)ことからわかります。

定理:
交代群は n-2 個の次のような3文字の巡回置換,(123),(124),・・・(12n) で生成される。

これは,n の元はSnの元なので,偶数個の(1i),i≠1 の形の互換で生成されますが,2つの互換をとると,

(1i)(1j)=(1i)(12)(12)(1j)=(12i)(12j)-1
    =(12i)(12j)(12j)   ただし, i,j≠1

と書け,定理の主張が正しいことが分かります。

4.対称式と反対称式

[1] 置換群は歴史的には関数や方程式の変数や未知数に作用させることでその重要性が認識され発展してきました。ここでは,対称式がどういうものか簡単に述べておきましょう。

  σ を n 次の対称群 Sn の元(置換)とし,n 個の変数 x1,x2,x3,・・・xn に作用するものとしましょう。すなわち,σによって各変数は,

x1→σ(x1), x2→σ(x2), x3→ σ(x3), ・・・, xn→σ(xn)

と移ります。また,変数 x1,x2,x3,・・・xn からなる整式を

f = f(x1,x2,x3,・・・xn)

とします。このとき,f にσ  を作用させることを,σf  と書き,

σf(x1,x2,x3,・・・xn) = f(σ(x1),σ(x2),σ(x3),・・・,σ(xn))

と定義します。

[2] 例えば,f = x1・x2+x3,  σ = (x1x3) とすると,

σf = σ(x1)・σ(x2)+σ(x3) = x3・x2+x1

となります。このように一般にはσf≠f ですが,ある整式(または関数)は,任意の置換σについて, 

σf(x1,x2,x3,・・・xn) = f(x1,x2,x3,・・・xn)

が成り立ちます。このような整式(または関数)を対称式(または対称関数)といいます。例えば,

x1+x2+x3, x12+x22+x32, x13+x23+x33

などは対称式です。

[3] 特に対称式の中でも基本対称式と呼ばれる重要な整式は次のように定義されます。

定義:
 x1,x2,x3,・・・xn に関しての r 次の基本対称式: s(x1,x2,x3,・・・xn) とは,

    x1,x2,x3,・・・xn の中から異なる r 個(≦n)の元をとって作った積のすべての和)

である。

これは具体的に書いてみる方が簡単です。例として,n=3 の場合の基本対称式を書いて見ます。

s1(x1,x2,x3 ) = x1+x2+x3        (1次の基本対称式)
s2(x1,x2,x3 ) = x1x2+x2x3+x1x3  (2次の基本対称式)
s3(x1,x2,x3 ) = x1x2x3         (3次の基本対称式)

などとなります。

[3] また,対称式に関しては次の命題が成り立ちます。

任意の対称式  f(x1,x2,・・・xn ) は基本対称式,s1,s2,・・・,sn で表される。すなわち,

  f(x1,x2,・・・xn ) = F(s1,s2,・・・,sn )

となるような s1,s2,・・・,sn に関する 多項式 F が存在する。

これも証明に代えて, x1,x2,x3 の対称式 f = x12+x22+x32,および,x13+x23+x33 について具体的に確かめましょう。

f = x12+x22+x32 = (x1+x2+x3)2−2(x1x2+x2x3+x1x3)
              = s12−2s2
              = F(s1,s2)
f = x13+x23+x33 = (x1+x2+x3)3−3(x1+x2+x3)(x1x2+x2x3+x1x3)+3x1x2x3
           
     = s13−3s1s2+3s3
              = F(s1,s2,s3)

となります。

[4] 対称式はいろんな場面で活躍しますが,n次代数方程式を,

g(X) = Xn+an-1Xn-1+・・・・・+a1X+a0
    = (X−ω1)(X−ω2)・・・・(X−ωn) = 0

とあらわすと,方程式の各係数 ak が方程式の解 ωj の対称式で表せることが方程式論の議論の出発点となります。

↑ いわゆる ”解と係数との関係” です。

[5] 一方で,ある整式(または関数)f は,任意の置換σについて, 

σf(x1,x2,x3,・・・xn) =(sgnσ) f(x1,x2,x3,・・・xn)

を満足します。このような整式(または関数)を反対称関数と呼びます。例えば,

f(x1,x2,x3)=(x1−x2)(x1−x3)(x2−x3)

は反対称関数です。

[6] 任意の関数に作用して,対称関数,または反対称関数を得る応用上重要な”置換の演算子”があります。その定義は次のようになります。

s Σ σ          [対称化演算子]
σ∈Sn

a Σ (sgnσ)σ     [反対称化演算子]
σ∈Sn

和はn次対称群Snのすべての元にわたってとられます。これらを,例えば,対称関数でも反対称関数でもない,

f(x1,x2,x3)=x1x22+x3

に作用させると,

sf(x1,x2,x3)=(x1x22+x3)+(x1x32+x2)+(x2x12+x3)+(x2x32+x1)+(x3x12+x2)+(x3x22+x1)
        =x1x2(x2+x1)+x2x3(x3+x2)+x3x1(x1+x3)+2(x1+x2+x3)             ←訂正 09/01/11

となり,これは対称式です。一方,aをfに作用させることで,

af(x1,x2,x3)=(x1x22+x3)−(x1x32+x2)−(x2x12+x3)+(x2x32+x1)+(x3x12+x2)−(x3x22+x1)
        =x1x2(x2−x1)+x2x3(x3−x2)+x3x1(x1−x3)

のような反対称関数が得られることもわかります。これら演算子は量子力学でそれぞれボソン,フェルミオンに対する多粒子系の波動関数を生成する際に用いられます。

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